アメリカからの最新インプラント情報 |
|
|
|
歯科インプラントの臨床において、ここにもう少し骨があれば、もっと安定したインプラント治療が行える、という患者さんに出会うことがよくあると思います。GBRなどで対応できるケースも多いと思いますが、さらに多くの骨ボリュームを必要とするケースも少なくありません。例えば、以下のようなケースがあります。 1、サイナスリフト 2、外傷による歯槽骨欠損の骨補填 3、抜歯後、高度に吸収した歯槽骨 こうしたケースにおいて、現在のところ他の部位(オトガイ、下顎枝、腸骨)から骨を採取してくることによって骨不足部を補っています。一般的に自家骨移植と呼ばれ、治療成績がよく、現在広く用いられています。しかし、この治療法は残念ながら、以下のような欠点もまた持ち備えています。 1、手術時に骨採取部の痛みを伴うと同時に、骨採取部の術後知覚異常などの合併症を引き起こすことがある。 2、手術時間が長くなる。手術時間の延長は精神的苦痛だけではなく、より多くの腫れの原因となり、また感染など合併症のリスクを上昇させる。 これらは、Donor site morbidity(ドナーサイトモービィディティ)と呼ばれ、好ましくありません。そこでこの Donor site morbidityを解決しようと生まれた技術がティッシュエンジニアリングです。 では具体的にどのような治療なのでしょうか? この技術は、他の部位から骨を採取する事なく、少数の自分の細胞と、欠損部に必要な骨の形をした生体吸収性材料を用いて、体の外で生体に近い骨を作り、骨不足部に移植しようという技術です。従って、現在2か所の手術が必要であるものが、1か所の手術で済みます、具体的には以下のような順番になります。 1、腰骨から局所麻酔でごく少量の骨髄を採取する。 2、ラボにおいて幹細胞を分離し、骨を作る細胞に変化させ、自然に増やしてやる。 3、骨不足部と同じ形をした、生体吸収性材料に増えた細胞をのせる。 4、患者さんに移植する。 5、自然に体内の骨代謝に取り込まれる。 骨髄の採取は、ごく少量のため、わずか5分程度の処置で済み、器具の進歩により安全な技術です。 以上、ティッシュエンジニアリングを使った、次世代の治療に対する一般的な情報を述べました。現在、臨床応用に向けて、ほぼ満足のいく結果が我々のグループにおいて得られており、安全性、確実性など、詰めの実験が行われております。歯科医師が日常のインプラント治療に用いる日も近いと思われます。次回はこの治療の安全性についてもう少し詳しく述べたいと思います。 虻川東嗣 歯科医師、博士(医学) マサチューセッツ総合病院口腔外科/ハーバード大学歯学部 |